にんげんのて/日々野いずる
 
何年後の静寂を思えばいいだけの話
誰の灯火も消えた星空が迎えてくれる夢
ぱちんと消えて目が痛い
十一時に吐いたため息は
次の日も次の日も次の日もおもって
消えることがない

きみの話を聞いていなかったわけじゃない
なんて答えればいいかわからなかっただけ
つらつら吐き出される君の今に
共感できればよかったんだけど
私には難しくて
触れたかっただけの話を繋いだという
後悔に変わるのは早すぎること

ベルリンが崩壊したときの壁に触れてみて
家の剥れかけた壁紙に触れてみる

覚えてしまったので
もうさわれないかもしれない
その手触りは自分に沈んできて
これからを考えても終わらない
「私は劣っている」「ひどい」というつまんない独り言
君の良いように紡ぐ言葉に
いちばん私を嫌っている
特別な体験が特別な言葉を産むのなら
これから先もたぶん
そう
それともずっと劣化していくのかも

ここにあるのは
にんげんの手でしかなかった
かわいそうでこわかった
私の持つ人間の手
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