「黒い果実」の詩人に /服部 剛
みなとみらいを見渡す
横浜のビルのカフェで
ひとり珈琲を飲み
命日の近い詩人の生涯を偲ぶ
若き日に戦地で被弾し
負傷兵として帰国してから
九十三年の人生を終えるまで
からだの深い傷口が、疼(うず)いた
詩人の御魂(みたま)に語るように
目を瞑る
――私の祖父は戦後
体を病み、若くして世を去り
祖母の人生は変わりました
――母方の祖父は戦後
心を病み、夜になると奇声を発し
祖母の家庭は今にも崩れ落ちそうでした
――障がいのある私の息子は
あなたが世を去る二十日前に
産声をあげました
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