すいそう/田中修子
 


 彼がわたしに感染するときがあるのだろうか。この、巨大な火柱を内側にもつ男に。きっとそれは不可能なことだと思う。彼はわたしを半ば妹として見ていることもしっている。

 この方舟が約束された地にたどり着く日を待っている。
 最初の遺体の白いハトがやがて月桂樹の葉を咥えて戻ってくる。祝福の鐘の音はすでに耳鳴りのように低く響いている。
 約束の地にはまだたくさん人がいるだろう。彼はそこで理想の恋人に出会い、わたしを捨てるだろう。半ば壊れたコンピュータ先生はどうなるのだろう?
 わたしはまた独りになり、黴となって崩れ落ち、そうして、孤独な少女の指先に宿って、たくさんの生き物を咲かせることができるだろう。
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