塩田千春展にて/紀ノ川つかさ
 
 不確かな旅

羊水に揺られる小舟が
血管の糸できた繭を乗せていたことを
生きる中で傷を受けるたび
思い出す
その糸は長く延びていて
誰かとつながっていたはずだった
それは血を分けた誰かではなく
空に浮かぶ手に
ともにすくい上げられたい
誰か


 バスルーム

バスタブに地面を呼び込み
土にまみれてみたけれど
土には戻れず
皮膚はそれを追い出しにかかり
うめき声だけが壁に反響して
土に飲まれていく


 外在化された身体

手が落ちた
足が落ちた
血管だけが空に
昇っていこうとしたから
血管はもう
人の姿をしているのに
飽きてしまっ
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