虫のなみだ/由木名緒美
 
水面を幾重にも抱きながら藻が囁く
流れは何をも見送るもの
躓くものも うつむくものも
嘲笑うものも 祈りのひたいも

魚が撥ねる
いま その尾が視とめた光の破片が
太陽の剥がれた抜殻として
虫の呼吸の反射する瞬きを
浸された腹の午睡に手放す

東南から湿気を孕んだ風が吹き
川の流れが滂沱の落涙に縁取られる時

あなたは笑うだろう
あなたは真実を打ち立てるだろう
あなたはあなただと頷くだろう

だから私も走ろう
風が吹いている方角
その最先端で煙る水滴の霞を
頬に幻視し浸しながら

水面へと還る
一匹の虫として
尾のふられた先の葉陰をふるさとに
光の凱旋を待ちわびながら

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