僕らはいつも自分だけの譜面を探しているように/ホロウ・シカエルボク
んだか一番心を惹きつけたのだ、それはきっと内容がどうとかではなくて、台風の後の不思議な色の夕景が忘れられないとか、そんな感覚に近いものがあったのだと思う、他の部員もまめに顔を出すやつは少なくて、僕と同じように時々やって来ては自分の好きな映画を観る、という感じで、部でありながらその活動は非常に個人的な、身勝手で自由なものだった、僕たちが卒業してから映研は廃部になって、部室は物置になったと一度だけ電話をかけてきたアキに聞いた―そんなことを思い出したのは週末の夜遅く潜り込んだバーのテレビで流れていた「気狂いピエロ」のせいだった、いや、もしかしたら、それを観ながら飲んだジン・ロックのせいだったかもしれない、金を払って店を出てから、不意にアキの声が聞きたくなった、電話番号は覚えていなかった、尋ねたことすらなかったような気がする、雨が降っていたけれど傘を買う気にはなれなかった、今夜はもしかしたらダンパーペダルの夢を見るかもしれない。
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