衣擦れ/メープルコート
 
様がいるのなら、彼らのそばに寄り添ってほしい。
 私にはそろそろ神様は必要のないものだから。

 目を瞑り、静寂の中、耳を澄ませる。
 衣擦れの音がやけに美しい。
  ・・・その目はまだ開かぬのか。
 私の祖父の声に似ている。
  ・・・お前にはほとほと呆れたよ。しかし見捨てる訳にはいかないの。
 これは祖母の声。
 そうか、これは私の守護霊だ。
 優しさに包まれているような感覚。
 懐かしい匂い。
 この衣擦れは私を見守る音だ。
 なんて心地よいのだ。
 私はまだ見放されてはいなかった。
 願望のなせる夢でも構わない。
 私はすべてを洗い流し一からやり直せる。きっとだ。
 
 薄っぺらいカーテン越しに、黄色い月が見える。
 今宵私は死んだのだ。
 そして生まれた。
 すべてをやり直すために。
 悩み苦しむ人たちを忘れてはいけない。
 衣擦れの音が静寂の中、厳かに巡っている。
戻る   Point(1)