衣擦れ/メープルコート
様がいるのなら、彼らのそばに寄り添ってほしい。
私にはそろそろ神様は必要のないものだから。
目を瞑り、静寂の中、耳を澄ませる。
衣擦れの音がやけに美しい。
・・・その目はまだ開かぬのか。
私の祖父の声に似ている。
・・・お前にはほとほと呆れたよ。しかし見捨てる訳にはいかないの。
これは祖母の声。
そうか、これは私の守護霊だ。
優しさに包まれているような感覚。
懐かしい匂い。
この衣擦れは私を見守る音だ。
なんて心地よいのだ。
私はまだ見放されてはいなかった。
願望のなせる夢でも構わない。
私はすべてを洗い流し一からやり直せる。きっとだ。
薄っぺらいカーテン越しに、黄色い月が見える。
今宵私は死んだのだ。
そして生まれた。
すべてをやり直すために。
悩み苦しむ人たちを忘れてはいけない。
衣擦れの音が静寂の中、厳かに巡っている。
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