衣擦れ/メープルコート
衣擦れの音で目が覚めた。
こんな夜更けに、暗闇の中で。
気配をうっすらと残しそれは消えた。
夢であろうか。
誰もいようはずもない。
妻も子も出て行った。
私は病気だ。
心の病。
夢のような美音。
まさしく夢か。
再び寝入ろうとするとそれは聞こえた。
今度はよりはっきりと。
天使かそれとも死神か。
夢か現か分からぬままそれは私の周りを廻っている。
静寂の中、死が近づいてくる。
現世で私は悪党だった。
短い人生には後悔しかない。
人の役に立つ事など何一つしなかった。
自己満足のために働き、金を貰い、散財した。
いづれ罰が
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