噂/為平 澪
噂は一人、散歩するのが好きだった
特に 夜
人の歯の隙間からどうしても出てしまう溜息や
口臭を嗅ぐのが好きだった
同じ道を通り同じ流れに沿って歩き
同じ家の窓明かりの下で影になって
一周するだけの噂
なんとなく人間臭い所が好きなのに
さみしい噂
その日 噂は鍵の掛け忘れで
散歩の時間は午前二時半、丑三つ時
噂は聞いてしまったのだ
「──では、こちらが加害者になってしまう、
君、死んではくれまいか?」
噂は黙っていられない
黙っていれば、誰かが死んでしまうのだ
いや、黙って入れさえすれば
少なくとも自分の保身は守られる
横並びに大きな邸宅の
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