歩行器とロックンロール/服部 剛
 
ロックンロールを聞くために
玄関先の石段に腰を下ろして
鞄から引き出した
ディスクマンのイヤホンを、耳に入れる

陽炎(かげろう)ゆれる向こうから
小柄な婆ちゃんが
歩行器に寄りかかり
ゆっくり歩いてくる

――こんにちは

――やあね、こんなに暑い五月で
  九〇の体には、苦しいわ
  よぼよぼな自分を
  ぶったたいてやりたい
  はやくお空の上にいきたい

――いやいや…お婆ちゃん
  我が家の可愛いけれど、手のかかる
  手のかかるけれど、可愛い息子を
  がんばって育てる嫁さんが
  あなたの歩く姿に
  励まされているんです


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