遠い火をみつめて/帆場蔵人
 
遠い火をみつめている
どこにいても遥か彼方で
ゆらぐこともなく燃えている

あそこを目指していたはずなのだ
臍の下あたりで、眼球のうしろで
わたしのいつ果てるかわからない
火が求めている、高くも低くもない

わたしの先に常にあり
水の中にも夢の中にも泥の中にも
遠い火はたしかにあるのだ

ある時はオリオン座であり
ある時は街頭の歌うたいの喉の震え
ある時はゴミ捨て場の壊れた人形

ある時は父であったり母であったり
兄であったりする、時に憎しみさえ
抱くというのに愛して止まないのだ

病床に伏してみる天井の先の先の空を
飛ぶ鳥の羽根の一枚に宿る火をみつめ
身の内にある火が燃え盛る夜に熱い息を
吐き出す、火が逆巻く、痛みが、泣いて
いる、死に向かっていく細胞の燃焼が
遠い火を求めている、灰になっていく

しかし、遠い火をみつめて
のばした手は静かに震えて
まだ灰にならない爪先が
夜明けを指差していた

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