虫を飼う/田中修子
はく っ、 りっ
耳を塞ぐと虫の音が耳のなかに響き渡る、鈴虫が皮膚をぞろぞろぞろぞろ這っている。
そも、これは、すずむしか。でも鳴いているだろうが。
り、りりりりっり、りりり
鳴くよ、虫だから、どこまでも、甘いわめき声がみちみちる。
いまは五月だ。いまは五月だ。鈴虫の季節ではない、晴れ渡る空の向こうに紫陽花の煙る梅雨の日々が、くる。君が去った季節だ。わたしはいつも呼ばれそうになるのだよ。
やがて白くのぞける おとがい
赤く膨らむ唇が、のぞんで、ね?
はくりっ はくりっ 吐く 吐く 吐く ははっ!
もう動かないよ、動けないよ、ガトゴト油が切れたみたいにキーボードを打
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