朝の日記 2042夏/たま
 
九十歳になった
築五十年の家にしがみついて
まだ生きている
妻はもういない 
子もいないからもちろん独居老人だ 
介護施設には入らない 煙草が吸えないから
死ぬまでこの家にいる
死に方は決めてある
餓死がいい
財産はこの家だけだから欲しい奴にやる
葬式はいらない 適当に焼いてくれ
終活は何度もやったから
家財はもうほとんど残っていない

涼しい廊下に 
雌犬が一匹いる
俺より先に死ぬなと言い聞かせているが
もう十六歳だから 俺と同い年かふたつ若い
九十歳になれば ひとも犬も同じ
喰うことと 寝ることと 排便
身体が動くうちはいい
動けなくなったら
歩けな
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