空き部屋/墨晶
 
          n'est plus l'impromptu, d?j?
 一階の角部屋を覗きに行く
 カーテンのない窓から室内がよく見える
 六畳の板の間の隅に
 サタケさんが茹で海老のような格好で寝ている
 やがてあくびをしながら起き上がり
 ボサボサの長髪を掻き上げると
 わたしに気づいて
「 よう 」と手をあげ 疲れた目で笑う
 そのまま
 写真のように動きを止めたサタケさんは
 透明になって消える
 いるときもいないときもあった
 新しい入居者が住み始めた
 もう覗きには行かない
 
 
 
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