旅人の石/渚鳥
1.
買ったばかりの鞄に縫いつけられていたロゴを鋏で切るとき
海沿いの坂を上るとき
痛みを覚えた数だけ
報われるわけではないのは知っている
一部を忘れて一部を忘れないで、拗れてゆくのは自分の方なのだと目を伏せる
棄てた贈り物たちは思い出したら最後、身から出た錆を踏んで空を仰いでいる
少しだけ息をさせて
桜が散るまで
身体中を駆け巡る言葉の蜜、
青空から生まれた、新しい肩で
こちらを向いている誰かに気づいた
それから喉がカラカラで
胸の中のガラスの時計、林檎色が揺れて
ぼくは同じ目にもう一度突き刺されてもいいのだ
共振されない叫びを叫ばずどう扱えば良かったのでし
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