花曇りの午後/もとこ
満開の桜の下に集う人々は
静脈のように透き通っている
花曇りの午後に風が吹いて
柔らかい水のような眠りを誘う
穏やかに笑う彼らの腕時計は
それぞれの時刻で停止している
目的も意味もそっと剥がれ落ちて
密やかな笑いだけが掌に残る
楽の音も喧噪もない沈黙の春に
やがて花びらが降りはじめる
風に吹かれて裏おもて表うら
すべてをさらけ出して地に堕ちる
満開の桜の下に集う人々は
もう互いを見ることができない
花曇りの午後は静止したまま
柔らかい水のような永遠になる
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