春の舟/服部 剛
明日の僕は
春の舟に乗るだろう
川の両岸につらなる桜並木は
咲いているのか、いないのか
わからないが
僕は自らの中に
ようやく唇を開き始めた
小さな蕾(つぼみ)に、手をあてる
川の流れに身をゆだねるほど
時の流れは緩やかに加速してゆく
僕ハ/僕ノ/行方ヲ/知ラナイ
僕ハ/君ヲ/知ラナイ
君ハ/僕ヲ/知ラナイ
僕ハ/僕自身ヲ/知ラナイ
僕ト/君ハ/コノ世界ヲ/知ラナイ
僕にとって君は
計り得ない
宇宙です
僕は明日
旅の舟に乗るだろう
辿り着いた平成最後の町で
精神と肉体が分断された世界の
ひとつ、ひとつを
もう一度つなぎ合わせるように、僕は
まだ見知らぬ日々を往く
背中合わせの畏怖(いふ)と歓びを、腹底に宿して
寒さに独り…震えながら
長い冬の夜明けを待っていた
あの頃から
今も変わらず胸に疼(=うず)く、蕾よ
春の日射しに顔をあげて
自らの花よ 開け
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