青空/新染因循
 


青空。

あれは欠けてしまった心だ、
心の欠けらなのだ、
重力のようにわたしを惹き、
赤子の瞳のように影を呑むのだ、

どこにも行けないという幻肢痛。
慰めがたい痛みを慰めようと
冷ややかな雑踏のなかに
わたしは身をうずめたのだ。

黒々としたアスファルトのうえ、
鈍い玉虫色の水溜りをまたぎ、
あらゆる影から滲みでた激流が
奔る、奔る。

からみとられる足もない
もがくべき腕もないわたしは
ただ溺れ流されここに在る。
ここに、在るだけ。

失くしたものも忘れて
波間にたゆたうクラゲのように、
だがクラゲは飛べはしないのだ
いかに惹きつけられようと。

忘れたことに涙し
涙することを忘れるころ、
雨は降らない。
澄み切った青空だけである。


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