人でなし/田中修子
近所の曲がり角
夜の雨に濡れて煉瓦と
あたたかく帰る人を待つ街灯の
そのひかりが
煉瓦を光らせていたのは冬のことだったか
春がもう きている
梅の花びらがあたたかな煉瓦の上に
白く舞っている
詩で私がしたかったことは
いったいなんだったか 友よ 尋ねたい
きみの遺書が私を詩人にさせた 私は詩人などではなかったというのに
二十歳でときをとめた
きみはもはや
季節ごとに香りの衣をかえて私に八重歯をちらつかせ
まるで吸血鬼と天女のあいの子か
想い出の衣を纏って
生きていることから逃れられて
あなたは狡猾だ ああそうだとも あなたは狡猾だ
「わたしは死によって高
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