十月に(月と柘榴)/待針夢子
 
汗を出したおかげか、
底辺だった体調がゆるゆると浮上してきたようです。
時計を見ると、今日がはじまったばかりです。
枕元のペットボトルに手を伸ばすと、小さな土鍋が、そばにことりと添えられていました。
そういえば比奈子が、
出がけに台所で必死な音をさせていたと。
水分の足りない頭にポカリを補給しながら、
私はぼんやりと思い出します。
とき卵とネギの雑炊が食べたいと、
水を吸ってふくらんで冷え切ったころのそれを、
舌で潰すのが心地よいのだと、
うわごと言ったのを覚えています。


窓際には昨日もらった
柘榴がふたつ、そっけなく置かれています。
カギのかかった窓のむこう、
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