お母さん/ミナト 螢
曲がるトンネルに奪われた視界
両手にぶら下げたビニール袋は
あたしの歩く距離を知らなくて
ガサガサと立てる音に付いて行く
振り向いて欲しいお母さんの顔
あたしならもう靴擦れの跡を
絆創膏で止めて血が滲んでいる
靴下を洗うために立ち上がり
その背中におんぶして貰うほど
子供じゃないから置いて行かないで
逆光が互いの気配を潰し
ビニール袋だけが魂のように
揺らいでいくのを不思議に思った
靴下を濡らす冷たいおしっこ
重たくなったスニーカーのせいで
トラックの派手な色の電球が
前を向いても走れなくなった
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