夜の中/為平 澪
電灯を持って 夜を渡っていく
陽に炙り上げられた煤けた空は
山影に 明かりをしまう
小指ほどの電灯をつけようと ボタンを押す前に
避け切れない車のライトに 身体は轢かれる
カーブミラーの中は 車が去ったあとの
痕跡を静かに見つめるだけだ
前方の二階の窓は火事
その隣の部屋で殺人事件が起きていた、と
ゴミ置き場のポスターの男が
赤い部屋へと指をさすが
交番の巡査は異常なしの欄に〇を書く
書いた〇は交番の玄関で赤信号より赤く灯る
濃いメイクの女の顔が得意そうに目配せを送り
それが私の肋骨の隙間のあたりを通過していく
私は照らされ轢かれて 見つけ出され
[次のページ]
戻る 編 削 Point(5)