黒い箱/やまうちあつし
 
黒い箱を買うことにする
店に行けば売っている
値段は全財産の半分
富める者も貧しい者も
持っているものの丁度半分
店に行っても選ぶ余地はない
買うことを告げると
店員が店の奥に入って
適当なものを見つくろってくる
大きさは人によって異なる
両手で抱えるほどのものもあれば
手のひらに乗るくらいのものもある
形はたいてい立方体だが
直方体のものもある
これから生涯かけて
黒い箱を所持すると思うと
何だかこそばゆい
部屋に飾ろうか金庫にしまおうか
カバンに入れて携帯するのもいい
どこかにふたがあり開く様子もない
振ると音がするわけでもない
精密機器なのかただの固形物なのか
それもわからない
足早に店を出る背中を
店員が何とも言えない表情で見送る
おそらくそれが趣味なのだ
ありがとう、とも
おめでとう、とも
言わないことになっている

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