「ままごと」/桐ヶ谷忍
しかけ、ひとりで笑っている、
幸せそうに。
私はのろのろと母の後ろを歩く。
買い物カゴにはハンバーグの食材。私が好きだったメニュー。
菓子コーナーで、おもちゃ付きの箱をカゴに入れてまたひとしきり
人形に話しかけている。
子連れの婦人が慌てて逃げた。
こどもがほしがるような菓子は体に悪いと私には与えられなかったものが
人形には与えられる。
怒りと嫉妬で睨みつけるが、母は人形しか眼中にないようで、ずっと後ろを
つけ回している私には、一瞥すらない。
カゴを持ち会計待ちの列に並ぶと、母の前後の人がサッと消えていく。
レジのおばさんが母を見ずに、神経質な素早さで合計金額を言う
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