村の記憶/帆場蔵人
食べていた話しなんかをしながら葬いの空気を作っている。ぼくは離れの物置きで古びた釣り竿を二度、三度と振ってみた。いまだに釣りはうまくない。それから釣り竿を座棺のなかに滑り込ませた。だれもなにも言わない。ぼくのする事に怒らずにはいない父ですら、無言
やがて座棺は村の人々に担がれて葬送の列はうねりながらのびて、山のなかへと呑まれてゆく。とても天気の良い秋の日のことだった。祖父と釣りをした小川の橋を渡り、放牧された牛たちが草を食んでいる傍らを抜けて、曽祖父やその家族が切り拓いた田畑の間を通り祖父は山の墓場で土葬された。みんな谷にかえるんや、ぼくは呟いて墓のそばの桐ノ木をみあげる。それはとてもとても繁っていた。遠く牛の鳴き声が谷にこだまして、おかえり、とだれかが呟いている。とても静かに ひと粒がおちて 波紋をひろげながら みんなそこに かえるのだ
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