沈黙の海/新染因循
海に近づくと一瞬の真空がある。
漣は失望のように浜辺につもり、
明日を生きる人は海を捨てた。
漂白した回想が水泡となったころ
海は思い出したい人を抱いて、
漣はやはり、つもるばかり。
空と海のひびきあう水平線をこえても
雲は、海藻は、
ゆれるばかりの、在るばかりの
沈黙
考えたことがあるか、
空と海の屈折率を、
くりかえされる一日と
あわいにゆれる波を、
波のなかに鏤められた
沈殿した時間の硝子めいた煌めき、
海硝子はいずこの海流に漂い
いかなる波と砕けたのか。
白浪が大地に砕けちると
ただ渦を巻く水面のように
思い出は、白むばかり。
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