世界は泣いている/由木名緒美
 
糸を伝わる震えとぬくもり
声の往信が私達をつがいの鳩にする

時間が道路なら振り返って走ろう
白線にそって回顧の草を摘みながら
あの白い家屋に飾ってある
陽に焼けた一枚の写真を目にするため

夜には熱い夏をくべて
朝には青い誓いを杖にして
ひたすら走ろう
廃れた風景に光の粒を植えながら
蜃気楼を振り仰いで悲しみを叶えよう
喜びよりも尊い涙を抱きすくめて

不知とはまだ見ぬ過去を洗う発掘
何度醒めても覚えない夢の足跡
悪夢で変わり果てたあなたの指先を
もう一度掴みにいこう
あなたがまた牙をふるうなら
眠りの中で何度でも微笑んでくれるだろう
幻視は世界の写し鏡
誰かが泣くかぎり私は傷を負う
それで癒される瘡蓋があるならば
もうそれでいいよ

世界は泣いている
世界は泣いている

その声が産声で満たされているのならば
伝書鳩は優しい周遊に世界の夢を伝えるのかもしれないね




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