夜道 〜19:03 応答せず〜/帆場蔵人
 
くことで、否定していたかった
俯くことで、眼を逸らしていたかった
俯くことで、他人のふりをしていたかった

負け犬め、おれはあんたのようには
なりはしないと叫んでいたら
違ったのか、震える携帯を
無関心に放り出したとき
ひとつの生命を手放したのだ

顔は忘れても
神経質なまでに整えられた髪や
最後の着信履歴の時間だけが
ふいに足にからんで、おれを
夜道にふらつかせる

ガラスケースの前に留まる風はなく

とぼとぼ、夜を歩いて
おれはお前を心底、知らなかったのだと
告白してまわれど、応える声はなく
とぼとぼ、ちいさくなり、とぼとぼと
夜風に巻かれてきりきり舞い散った




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