未詩・秋のはじまりに/橘あまね
 
石ころになりたかったんです
道のはしっこで
誰の目にもとまらないように
ときどき蹴飛ばされても
誰のことも恨まないような
ちいさな石ころになりたかったんです

たいせつな物は思い出の中には何もなくて
いつも何かが妬ましくて
焦がれる感情を押し殺して
何も感じないふり 考えてないそぶり

ちいさな陽だまりがあったんです
十月のささやかな午後みたいな
もうすぐ死ぬ虫たちが集まって
まどろみの途中で そのまま終われたら
いいね なんて
さみしくないよ なんて

ずっと夢の中です
生まれてからずっと
覚めない夢の中です
熱病にうなされるように
ちいさな細胞たちが集まり
大きくなりたかったのに

未遂のままがいいんです
何を為すこともなく
ただ道端のちいさな石ころとして
いつか誰にも蹴飛ばされなくなって
静かな風景の一部として
うずもれていけたらいいんです






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