偽文集/春日線香
 
にうすらぼんやりしているので彼らは死者なのだとわかる。とはいえ、自分も同じような顔をしているのは明らかで、そもそもここに生きた人間が入ること自体が不可能なのだろう。いつのまにか塩素臭いレインコートを着せられて本の番をしている我々がこの職務から解放されるのはいつなのか、いやそもそも職務といえるのかどうか。棚から本を抜き出してぱらぱらと目を通しても、煤けたページに不明瞭な文字や図像が蛇のように蠢くばかり。呆れ果てて本を床に投げ落としても、次の瞬間には書架に新しい本が補充されている。棚から棚へ、部屋から部屋へ。時折すれ違う彼らの顔に絶望や恍惚を読み取ることは困難で、同じように、自分も自らの来歴すらわから
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