偽文集/春日線香
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足が寒くて目が覚めた。寝ているうちに片足が布団から出てしまったらしい。なにか不安な夢から抜け切れないで枕元の明かりで足を見てみると、透き通った白魚が腿のあたりまでびっしりと食いついている。食いついたきりでぴくりともしないので生きているのか死んでいるのかもさだかではないが、やはりこれは生きている物の怪だろう。夜中の弱い明かりの下、白魚は食いついた足から吸う血によって徐々にルビー色に染まっていくのだ。
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「僕がその古本屋を訪ねたのは職業上の理由があったからで、それはある秘匿された情報の調査のためである。戦前、日本国の気象情報は軍部によっ
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