「春を待つ」/桐ヶ谷忍
た
幻想だ
母は自分に向けて微笑んでくれなどしない
代わりに、死なれる嘆きもないだろう
そうさせたのも、そうなったのも、仕方ない
仕方ないと、諦めはついていたはずだ
まどろみに見た、ただの夢だ
手足をいっそう縮ませ、かたく目を閉じる
まだ眠らなければ
雪の下のこの暗い土中でただただ眠るのだ
春になったら土を掻いて、掻いて掻いて
地上へと這い出るのだ
春の陽は
自分を生んだ時に見せてくれた、母の微笑のようだろう
それだけは、きっと間違いないだろう
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