低い土地 2018・10/春日線香
って、ぞんざいな手つきで家事を済ませていく。天井いっぱいに知らない人間の顔が広がっている。どこまで読んだかわからない本を開いて、ゆっくりと記憶の脈絡を辿る。
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明晰なままで狂っていくのだ。私ではなく世界が。信号は青なのに携帯電話を覗き込んでいるせいで誰も渡ろうとしない。鳥は空中で弱く羽ばたいている。夜の鉄塔には犬も猫も人間も一緒くたに吊り下げられて、皆まだかすかに息がある。
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またこの場面。古い映画の中で若い祖母が蕎麦を啜る。つるつると延々と啜っているので逆に吐き出しているようでもある。黒縁眼鏡をかけて、お下げが二つ。その脇に若い祖父。母方の実家のようだがそうではないのかもしれない。地下かもしれない。
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