針女その他の物語 2018・9-10/春日線香
 
電気ケトルと時計の間に住む老婆が教えてくれた。「お前が眠っている間に雲から女の腕が伸びてきて、窓をすり抜けてお前の顔に透明な手形をつけていったよ。その手形は洗っても落ちないだろう。もう逃げられないよ」


         * * *


針女について語らなければならないだろうか。そんなことができるわけがない。私が言えるのは彼女の舌、真っ青なその上に無数の針が針山のように刺さっていることだけであって、他の何一つも許されてはいない。自分ではもう喋ることのできない彼女の腐り落ちた横顔を、風の中から拾い上げて示すだけ。ただそれだけの暗夜の鏡。濁った忘れ沼の星明り。


        
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