井戸のふた/為平 澪
雨天が続き狭い古井戸に 水嵩が増す。
私の仕事は、モノクロの写真を陽に透かして、セピア色
に変色させたあと、井戸に沈める仕事だ。夜に、井戸の
ふたを開ける。白い私が発光して浮かんでくる。黒い私
は未成熟だと、発酵して沈められる。井戸は、私と私に
境界線を引き、浮かべる者と、沈めるモノを、水圧で推
し量る。
長雨は続き、人は何かが雨を降らせているのではないか、
と噂したが、井戸は変わらず水量を増やし続けた。
夜、井戸のふたを開けると、沈めたはずの写真が、こぼ
れ落ちていた。恐る恐るその一枚を手にすると、私はこ
の仕事を辞めたいと、井戸に訴えた。それでも井戸は黙
っ
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