Storytelling, Again 2018・9/春日線香
 
もう一年になる。トラックが子供をはねて今もそこに白い花が供えてある。途切れずに誰かが、たぶん遺族だと思うが替えていて、そこだけいつも瑞々しい気配が漂っている。夜暗くても甘い香りがして花が供えられているのがよくわかった。通りすがりに横目でちらりと見る毎日で、その白い花がいつまでも枯れないなにかの目印になっていた。


         * * *


地下鉄のホームの端には観音開きの扉があり、さらに地下の映画館に続いている。古い時代には小劇場であったらしく、今は喫煙所になっているあたりにはかつて営業していた食堂の名残が認められる。観劇の前にそこで弁当を買って客席に持ち込むのが通例であった
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