彼岸と語る/為平 澪
 
耳の隙間から浸水してきた水圧に
古家と私の身体はただ錆びついて
歯車の音は止む

薄暗い仏壇に薄寒い軽薄が漂い
手を合わせる家族を失った遺族たち

残された者と取り残された者の会話は
姑と小姑その娘という憎しみの砦を越えて
「実家」を再現する幼年時代の話題は
齢(よわい)八十を超えた者の
記憶の中でしか遊び場を知らず
また その先の逝き場を覚悟させる

幼馴染みが何人渡っていったのだろう
(病気で、異郷で、突然死で、独りで
(なんの、知らせもなく

何食わぬ顔で向かえていた明日に
二本足で立てない未来が待ち受ける
((年は取り
[次のページ]
戻る   Point(0)