とりどりのいき/田中修子
 
名も付けられぬとりどりの色をしている砂の文字列に埋もれて
やわい肉を縮めこませ
耳を塞ぎ
あなたに握りしめられればその途端
脆くパリンとわれてしまうような
うす青い貝になってしまいたいときがある

いびつな真珠 海岸に打ち上げられた心臓の、血管まで浮かび上がっている塩漬けのかたくて軽いクルミ 骨董屋さんで300円で買った花のような透きとおるガラスのプレート ヘンリー・ダーガーの画集

いま夢らしい夢から
すこし、そう二、三歩距離を置いたようにベビーベッドがあり
血が乳になり 久しく流したことのない涙のようにあふれ
あのひとは 母乳をあたえなかったが
きっと乳房の痛みを 父
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