雨とモスキートコイル/MOJO
 
複数の女の声がした。きっと付近の女子高生だろう。女慣れしている多田と野田が応対している。
「ファンになりました。次のステージはいつですか?」
 そんな会話が聞こえてくる。どれどれ、おれも女子と話そうかな。そう思ってひんやりしたタイルから身を起こし、扉に近づいてみると、彼等は既にそこにはいなく、廊下をひと固まりになって、楽しそうに歩いて行ってしまった。ああ、取り残された。まあいいさ。女に慣れていないおれは、どうせろくに会話に交じることは出来なかっただろうし。

 学園祭が終わると、メンバーの結束は弱まってしまった。というよりも、バンド原理主義のおれに他面子がついてこなくなったというべきか。多田と野田は、あの時楽屋に来た女子たちをバイクの後ろに乗せて遊び呆けていた。一番ルックスの良い女子は、保坂に興味を寄せ、ふたりは付き合うようになったらしい。
 数か月後の、ある雨の日、放課後に、相合い傘で駅に向かう保坂と美人の彼女を、おれは嫉妬交じりで見ていた。そして、おれにとってはかけがえのない、ひとつの季節が終わってしまったことを知ったのである。
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