広瀬川のほとり/服部 剛
この古びた階段を登ってゆけば
あの宙空が待つだろう
*
何処までも細く真っすぐな緑色の道
私がどんな哀しみに歪(ゆが)んでも
あの空は
この胸に結んだ
ひとすじの糸を、手繰(たぐ)るだろう
*
柳よ、何故そんなにも風に身を揺らすのか
川よ、何故小さな流れの渦は
この胸奥(きょうおう)の
血管を――巡るのか
*
背丈の高い木が、無言で歓ぶ
密やかな午後と
遠い町の喧騒
*
私はまだ知らない
ほんものの陽が
いともか弱い、自らの影を
くっきり立たせていると
*
今日も水車は
からから…廻り
川の飛沫(しぶき)は頬に、跳ね
私の中も廻り始める
*
空に白い月が膨らみかける
午後
土蔵の暗がりに入ると
朔太郎の澄んだ宇宙の瞳と
目が合った
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