幸福〜晩春の朝に/ヒヤシンス
 

 桜舞い散る晩春の朝だ。
 風は未だ冷たく、貴女の頬を赤く染める。
 故郷の庭では椿が咲き誇る。
 ストーブの上ではやかんが湯気を吹いている。

 頬を染めた貴女はいつしか私の手を握る。
 貴女の熱が私を温める。
 炬燵の中から猫が顔を出してそれを見ている。
 仏壇の前で線香をあげていた義母もこちらを覗き微笑んでいる。

 幸せは今ここにある。
 人生嫌な事ばかりじゃない。
 愛と優しさが小さな部屋に満ちていた。

 透き通った風が淡く広がる風景に沁み込んでゆく。
 私の肩に頭を寄せた貴女は美しかった。
 晩春の朝に桜は静かに舞っている。

 

 
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