赤穂の海はまだ満ちて/為平 澪
山育ちの子が海を知った
知らなければその深さも大きさも
わからないまま死んでいく
たった一日の出来事を
赤い水着を着た縁取り写真の子が
記憶を差し出す、午後五時九分の日没
赤穂海岸で俯きながら玩具のカジキで
アサリやハマグリを獲る、掘る、漁る、
私の顔は写真を捲るごとに泥にまみれている
浜辺では日よけ着を肩にかけた 若い母が
弟を抱えながら あやしている姿もあった
父と競って手を突っ込んだ腰下の海
集めた貝たちをポリバケツに入れてみたが
量り売りにあって
全部は持って帰れなかった 私たちの家路
父は亜麻色に灰色の斑点模様のついた
小さな巻貝を 私の手に握らせ
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