林檎売り/やまうちあつし
 
林檎くらいしかない
君に渡せるものといったら
それは詩でできていて
内側を列車が走っている
よく見れば車窓には
いつかの君と
いつかの誰か
そしてみんながカムパネルラだ
一人の夜に光を放つ
齧ってみてもいい
飾ってみてもいい
転がしてみるといい
絵に描いてみるといい
きっと悟るに違いない
自分もだれかのカムパネルラだ
そんな林檎を売っている
店はどこにも一軒はある
店の奥のほう
ひとつだけ眠っている
林檎くらいしかない
君に渡せるものといったら
林檎くらい
持っていってほしい
遠くからやって来て
遠くへと去ってゆく君に

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