影/あおい満月
どこにもいない自分を探した
どこにもいない自分は
本当はシンクのなかのボウルに
貯めこまれた水を掬う手のひらのなかにいて
さかなのように鰭をかえして
私の指先をすり抜ける
沸かしたお湯に注ぐ珈琲を
啜る唇から
どこにもいない自分が入っていく
自分は赤々と流れる川へと繋がる
水の花から花を伝って
海を目指して流れていく
*
笑い声を聴いた
それは私の内側で
毛穴から聴こえてくる
どこにもいない自分の笑い声だ
声は部屋中に充満する
誰も気づいていないが
私にはわかる
声が無性に何かを欲しがっている
それは私のことばだ
指先をひりひりさせた
どこにもいない自分は
キイボオドに向かい
言葉にならない
血にまみれた肉体を持つ
ことばを私に書くように
私の背中を押す
べっとりとした血のぬくもりから
声が聴こえる
それはどこにもいない自分が見た
彼を認めなかった
求めなかった世界への
静かな肉体を持つ復讐だ
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