歩行者の唄/服部 剛
 
旅人は今日も漫(そぞ)ろ歩いてゆくだろう
「良い」と「悪い」を越えた
地平を目指して

脳裏を過(よ)ぎるいつかの別れは
忘我の歩調と
風に紛れて

すでに
体の無いあの女(ひと)は
密やかな唄を囁いている

今日も
鼓膜に消えない唄声を聴きながら
旅人は繰り返しの日々を通過してゆく

明日も出逢う旅の仲間と
目と
目の
合う、瞬間を求めて

無数の鏡をすり抜けて
また一枚
すうっと足を踏み入れる

我を忘れて闊歩するほど
玉葱の皮の剥かれゆく
<聖玻璃(せいはり)時間>の――只中へ  





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