歩行者の唄/服部 剛
旅人は今日も漫(そぞ)ろ歩いてゆくだろう
「良い」と「悪い」を越えた
地平を目指して
脳裏を過(よ)ぎるいつかの別れは
忘我の歩調と
風に紛れて
すでに
体の無いあの女(ひと)は
密やかな唄を囁いている
今日も
鼓膜に消えない唄声を聴きながら
旅人は繰り返しの日々を通過してゆく
明日も出逢う旅の仲間と
目と
目の
合う、瞬間を求めて
無数の鏡をすり抜けて
また一枚
すうっと足を踏み入れる
我を忘れて闊歩するほど
玉葱の皮の剥かれゆく
<聖玻璃(せいはり)時間>の――只中へ
戻る 編 削 Point(1)