カーネーション/あおい満月
私にはこどもがいた
誰にも知られることのない
私だけのこどもがいた
男の子だった
その子は口がきけなかった
けれど、目と耳だけは確かだった
彼は目でことばを話し、
耳で私の心を食べていた
だから、私は彼には
隠し事は出来なかった
ただひとつだけ、私には
彼に知られたくないことがあった
それはこの家のことだ
この家には、鋭い監視人がいて
私たちはこの家から
逃げることが出来なかった
それはこの家を司る大きな母の目だった
母は目が見えないけれど、
私と私の息子のことはよくわかっていた
息子は母によくなついた
彼は母の紡ぐ物語を聴くのが大好きだった
一番好きだっ
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