勝鬨橋/のらさんきち
 
此岸から彼岸へと
車の葬列が往き過ぎていく
勝鬨橋の寂しいど真ん中
ぬばたまの闇色鏡を
滑っていくあれは屋形船か
はたまた精霊船だろうか
城塞の如く聳えるビルの窓には
煌々と点された幸せの灯
送り火のように

死んだように横たわる橋の背を
まだ生きている私が歩く
私の訪れを待つ人達の許へ
それは幸せなことだろう
生きる理由こそが
私の命を削るのだとしても
そう言い聞かせながら
足裏に地を踏めと命じるのだけど


ああ、彼方には炮烙の如く
赫々と灼ける東京タワー
足掻けども足掻けども
此処は煉獄か
間近に見えるひと際巨大な城塞では
幸せを抱き締めて焼け爛れる者が
後から後へと、引きも切らぬ
哀しみを映す暗い川の水面だけが
その魂を受け止めてくれるかのようだ
見上げれば
闇夜にもまた数多の灯
還るべき空は閉ざされている


立ち止まる者などいない
生ける者も死せる者も
川風に吹かれて漂うばかり
生死が危うく交わるあわいには
打ち棄てられた自転車ひとつ
来るとも知れぬ主の迎えを待つばかり
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