黒い指先〜夜に。/ヒヤシンス
 

 黒い指先でノートに描く空想は踊る。
 悲しみのインク、苦しさのインクはすぐに消えた。
 快楽のインク、喜びのインクだけがノートに刻まれる。
 夜は静かに更けてゆく。

 ノートに綴った我が子の記憶はやがて薄れてゆく。
 あれほど流した涙も吸い取られてしまった。
 喜びのインクで悲しみを刻み込もうとすると、脳味噌が破裂しそうだ。
 感情がコントロール出来なくなる怖さ。

 人生を彷徨う者に給料が支払われないのは苦痛だ。
 人生をやり直したい者に時の流れは残酷である。
 せいとお陰をはき違えている自分はみじめである。

 黒い指先でノートに描く妄想は激しく跳ねる。
 それでも夜は静かに更けてゆく。
 結局私のノートは真っ白のまま沈黙している。
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