おじいちゃんのシャツ/鶴橋からの便り
 
思い出を吹き飛ばすような一二月の木枯らし
寒さに心を突かれ 午前六時に目が覚めた
うがいをした後 ホットミルクを飲み干すと
おじいちゃんの声を思い出した
「マサジ、寒い時は下着だけはしつかりとしたものを着ろよ」
その温かい言葉に 何度の冬を乗り越えてきたことか

おじいちゃんは亡くなる前 僕にシャツを譲ってくれた
大きなガタイを包むように そのシャツを着ると
「マサジ、仕事に行ってこい」と おじいちゃんが背を押してくれた
おじいちゃんのシャツは 商人(あきんど)のにおいがした
額に汗をし銭をかせぐ 商人(あきんど)のにおいがした


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