ふるえる手/為平 澪
 
母が母でなくなる時 母の手はふるえる
乗り合わせのバスは無言劇
親切だったおばさんは 母の乗車後には夢になる
向かう先はお山の真上の病院で薬をもらえば
また手が ふるえる、ふるえる、大量の薬を飲む手
繰り返される寒村の暗黙の了解の中に罠
私たちの幕は知らない人の手で いつも高い所から降ろされた
時間が役立たずになったバスから 現実を眺め
乗客は自分の夢の中から外界と交信する
人々は一方的に語り掛け、語り合い
それが一方通行でも母は笑い そして彼らは母を嗤った
困惑の表情の下から覗く、また、ふるえる手

  大きな字しか見えない年老いた運転手が、真冬に黒いサングラスをかけ、
[次のページ]
戻る   Point(9)